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心拍数と脈拍数

健康体力科学04-07

ヘルス・フィットネス・サイエンス04-07

Health/Fitness Science 04-07

 

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心拍数と脈拍数

 

 この西端泉のブログ講座「健康体力科学」では、健康・体力づくりのための身体活動について、科学的に解説しています。

 前回(33回)、有酸素運動の強度の調節方法として、目標心拍数を用いることの現実的な問題点の1つを紹介しました。具体例を示し、年齢から最大心拍数を推定することには大きな誤差が伴うことと、これによって生じる可能性のある問題点を確認しました。

 今回は、運動中に心拍数や脈拍数を計測することの難しさを確認したいと思います。

 

西端の指導経験

 

 私(西端)は、三重大学医療技術短期大学部と川崎市立看護短期大学で、合わせて35年、「フィットネス・エクササイズ」という体育実技科目を担当してきました。当初は、教科書的に、年齢から推定した最大心拍数を用いた目標心拍数による有酸素運動(主にエアロバイク運動)を学生に行わせていました。ところが、エアロバイクに備え付けられている耳たぶで脈拍数を計測する装置にたびたび不具合が生じ、学生が非常につらい思いをしている様子に気がつきました。

 しばらくは、学生に脈拍センサーの付け直しを指示したり、身体をできるだけ揺らさないように注意したり、脈拍センサーを新しいものに交換したりしていましたが、それでも不具合は頻発しました。

 運動強度が高まってくると、心臓から送り出される血液のより多くが、運動のために働いている骨格筋に送られるようになり、とりあえず運動に必要のない組織への血流は減ります。耳たぶへの血流も減ります。エアロバイクに備え付けられている脈拍センサーは、赤外線で耳たぶの血流を測定する方式なので、耳たぶの血流が減ると、脈拍数が計測できなくなります。ところが、エアロバイクに内蔵されているコンピュータは、脈拍数が測定できなくなると、「脈拍数が低い」と判断し、つまり、まだ十分な負荷になっていないと判断し、どんどんペダルを重くしてしまうのです。

 これは「学生に対する拷問だ」と思いました。これでは、学生は単位をとるためだけに我慢して運動するが、単位が取れた後は、二度と運動しなくなってしまうであろうと、思いました。「健康・体力のために、生涯、有酸素運動を継続する」という教育目標の逆を、学生に教育していることになります。

 そこで、別の運動強度の調節方法を採用することにしました。その方法については、次回以降に紹介します。

 

脈拍数の計測

 

 多くの体育学、医学、看護学のテキストに、「運動中に脈拍数を計測し、運動強度を調節する」と書かれています。そして、脈拍数の計測方法として、橈骨(とうこつ)動脈、ないしは頚(けい)動脈の脈拍数を、指(触診)で計測する方法が紹介されています。

 しかし、仮に、運動を短時間中断して脈拍を数えるとしても、正確に数えることはできません。「運動中に脈拍数を計測し、運動強度を調節する」などと書く筆者は、自分自身は、実際に、運動中に脈拍数計測を行ったことがないので、正確に数えることができないことを知らないのでしょう。

 図は、私(西端)が、以前に、健康・体力づくり運動の指導者を対象にしたワークショップ(勉強会)の最中に、参加者にお願いして、確かめさせていただいた結果を示しています。

 横軸は、心電図、ないしはACSMをはじめとした多くの学会で正確に測定できることが確認されているPolar(ポラール)社製の心拍計で測定した心拍数を示しています。縦軸は、運動指導の専門家が、触診法で計測した脈拍数を示しています。

 理論的には、心拍出数と脈拍数は一致するはずなので、データ・ポイント(赤丸)は、全て、斜めに引かれた直線の上に乗るはずです。しかし、実際はそうではなく、多くのポイントは右下にずれています。

 機械計測による心拍数が100拍/分ぐらいまでは、ほぼ全ての脈拍数のデータ・ポイントは、斜めに引かれた直線の上に乗っています。このため、入院中の(ベッドに横たわっている)患者の脈拍数を看護師が触診で計測することには問題がないことになります。なぜなら、安静状態で心拍数が100拍/分を越えることは原則的にないはずだからです。安静時心拍数が100拍/分を越えると「頻脈」という異常になります。

 ところが、運動中は、ほとんどの場合、心拍数は100拍/分を越えます。そうすると、データ・ポイントは、右下にずれることが多くなります。右下にずれるということは、触診法による計測では「少なく」数えてしまうことが多いことを意味します。

 運動指導者である皆さんが、このことを知らずに、運動中の顧客の脈拍を指で数えると、実際には心拍数は高くなっているのに、「まだ心拍数は十分に高まっていない」と勘違いし、「もっと早く歩きましょう」とか「もっと大きく動きましょう」と、間違った指導をしてしまう可能性があります。

 そうすると、本来ならば、運動強度を制限しなければならない顧客の安全性を脅かしたり、過大な強度の運動を顧客に強要し不快な思いをさせることになってしまったりする恐れがあります。

 

図 機械計測による心拍数と触診法による脈拍数の違い

 

スマート・ウォッチ

 

 スマート・フォンと無線(Bluetooth)接続して、様々なデータの確認ができるスマート・ウォッチが普及しています。その多くが脈拍数を計測する機能を備えています。エアロバイクの脈拍センサーと同じ原理で、手首の血流を赤外線で計測するものです。そうすると、エアロバイクの脈拍センサーと同じ問題を有していることになります。さらには、ウォーキングやジョギングでは、腕振りをするので、スマート・ウォッチが振動してしまい、最中の脈拍数の計測をさらに困難にします。

 スント(Suunto)のWebページ(https://www.suunto.com/ja-jp/Content-pages/what-should-you-know-about-wrist-heart-rate2/)(2022年3月4日アクセス)には「・・・光学式や他の形式であっても、心拍数の測定値は推定値であるため、参考値やリクリエーション目的程度の使用にとどめておいたほうがよいでしょう。いかなる種類の医療目的にも使用することはできません」と書かれています。

 ガーミン(Garmin)のWebページ(https://support.garmin.com/ja-JP/?faq=xQwjQjzUew4BF1GYcusE59)(2022年3月4日アクセス)には「・・・光学式心拍計は最新の技術を活用していますが、技術固有の限界があり、特定の状況下では正確な読み取りが行えなくなることがあります」と書かれています。

 AppleのWebページ(https://support.apple.com/ja-jp/HT204666)(2022年3月4日アクセス)には「・・・理想的な状態であっても、Apple Watchはどのユーザに対しても常に正確に心拍数を測定できるとは限りません」と書かれています。

 

推奨できるのは胸部誘導型のみ

 

 医療機関で心電図を記録する際には、胸部に複数の電極を貼り付けて行われます。同様の方法で心拍数も計測することができます。これが、最も正確な計測方法です。

 心電図を記録するためには、最低でも3つの電極を用いる必要があるのですが、心拍数だけであれば、2つの電極のみで計測可能です。

 2つの電極であれば、ベルトに組み込むことが可能です。

 この方法を最初に実用化したのはフィンランドのPolar(ポラール)社で、2つの電極を内蔵した胸部ベルトで取り出した心拍データを無線で送信し、腕時計型の機器で受信し、心拍数を表示したり、記録したりすることができます。今では、複数の会社が、同様の機器を発売していますが、残念ながら、私は、Polar(ポラール)社以外の製品の精度や信頼性を知りません。ただし、近年では、Polar(ポラール)社も、胸部誘導(チェスト・ベルト)式でない、スマート・ウォッチと同様の光学式の心拍計も販売しているようなので、購入時には胸部誘導(チェスト・ベルト)式であることを確認してください。

 

高価

 

 スマート・ウォッチにしても、胸部誘導式の心拍計にしても、まともな物は数万円と、高価です。そうすると、なかなか、全ての顧客に購入を推奨することは難しいでしょう。少なくとも、学生にそのような要求をすることはできません。

 それではどうすれば良いでしょうか。次回に続きます。

 なお、医師から運動中の心拍数の上限を守るように指示されている場合は、可能な限り、胸部誘導式の心拍計を使用してください。そうしないと、命にかかわる問題を起こす可能性があります。

 

本ブログの著作権は「西端 泉」に帰属します。図・表を含めて、無断転載や加工は、著作権侵害になります。

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